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鹿児島地方裁判所 昭和55年(ワ)96号 判決

原告

前村静信

被告

徳永吉光

主文

1  被告は原告に対し金二七六万四五六〇円および内金二五一万四五六〇円に対する昭和五五年三月四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は一〇分し、その三を被告の、その余を原告の各負担とする。

4  本判決は主文1項に限り、原告において金五〇万円の担保を供して仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める判決

一  原告

1  被告は原告に対し金一〇〇〇万〇九二六円および内金九〇〇万〇九二六円に対する昭和五二年三月五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

被告の運転する自家用貨物自動車(以下「加害車」という)が昭和五二年三月四日午後八時二〇分ころ、鹿児島市新屋敷町武之橋交差点において信号待ちのため停車していた原告の運転する自家用小型乗用車(以下「被害車」という)の後部に追突する事故が発生した。

2  原告の負傷

右交通事故により原告は頭部外傷、外傷性頸部症候群の傷害を負い、同年同月七日から同年九月七日までの一八五日間整形外科田平病院に、同年同月二八日から昭和五三年三月三一日までの一八五日間厚地脳外科病院にそれぞれ入院した。

3  被告の過失

被告は本件事故当時、降雪のため車輪が滑走し易い状況にあつたから速度に注意し、早期に制動できるように進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、被害車の後方直前で急制動したため本件事故を惹起した。

4  損害

本件事故により、原告は次のとおり、合計一一二九万〇四八二円相当の損害を蒙つた。

(一) 治療費 二〇五万一二八〇円

ただし、整形外科田平病院分 一一一万四六〇〇円

厚地脳外科病院分 九三万六六八〇円

(二) 入院雑費 一八万五〇〇〇円

ただし、一日あたり五〇〇円としてこれに入院期間合計三七〇日を乗じたもの。

(三) 交通費 一二万四〇〇〇円

ただし、上花棚から西鹿児島駅までのバス片道料金は二〇〇円であるところ、原告の母は二五〇往復、原告は六〇往復、右バスを利用した。

(四) 休業損害 二三〇万二四〇二円

原告は本件事故当時、富士興産株式会社に勤務し、平均給与月額一三万三二〇二円を得ており、昭和五二年四月以降は給与月額一四万九六〇〇円に昇給することになつていたが、本件事故により、次の額の給与と賞与を失つた。

(1) 同年三月分 一三万三二〇二円

(2) 同年四月から昭和五三年二月までの一一か月分(昇給後)

一六四万五六〇〇円

(3) 昭和五二年夏期賞与(昇給後の一・五か月分)

二二万四四〇〇円

(4) 同年冬期賞与(昇給後の二か月分)

二九万九二〇〇円

(五) 書類作成料 一万二四〇〇円

ただし診断書、事故証明書等の作成料。

(六) 通信費 一万〇〇〇〇円

ただし通話料等の内金

(七) 貸テレビ代 一八万五〇〇〇円

ただし、一日あたり五〇〇円としてこれに入院期間合計三七〇日を乗じたもの

(八) 寝具料金 一万八五〇〇円

(九) 電家料金(入院中) 一万二一〇〇円

(一〇) 栄養費 一万四八〇〇円

ただし牛乳代が一本あたり四〇円であるところ、これに入院期間合計三七〇日を乗じたもの。

(一一) 付添看護費 三七万五〇〇〇円

ただし原告の母が原告の入院に際し二五〇日間付添看護し、原告が一日あたり一五〇〇円の看護費を負担した。

(一二) 慰藉料 五〇〇万〇〇〇〇円

原告は本件事故により失職するなど多大の精神的苦痛を蒙つたが、これを金銭に換算すると右金額に相当する。

(一三) 弁護料 一〇〇万〇〇〇〇円

5  損害の填補

原告は自動車損害賠償責任保険より九九万二〇〇〇円、被告より二九万七五五六円、合計一二八万九五五六円の支払を受け、これを損害額元本に充当した。

よつて原告は被告に対し、不法行為に基づき、一〇〇〇万〇九二六円および内金九〇〇万〇九二六円に対する本件事故の翌日である昭和五二年三月五日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は不知。

3  同3のうち、本件事故当時、降雪していたことは認め、その余の事実は否認する。

本件事故は、鹿児島地方には珍しい降雪のため不可抗力により発生したもので、被告に過失はない。

4  同4のうち、損害の発生の点は不知、その余の事実は否認する。

5  同5の事実は認める。

三  抗弁

1  原告は本件事故に際し、バツクミラーやルームミラーを通して後方を注視すべきであつたのにこれを怠つた。

2  原告はその症状に照らし、積極的に社会活動をすることにより損害の発生、拡大を防止すべきであつたのにこれを怠つた。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実は当事者間に争いがなく、同2(原告の負傷)の事実は成立に争いのない甲第二、三号証から認められる(但し、本件交通事故と損害との間の相当因果関係については後に判断することとする)。なお成立に争いのない乙第七号証や原告本人の供述(第二回)中には原告の入院期間が原告の主張以上に継続していた旨の部分があるが、弁論主義の適用上、その判断の要を見ない。

二  請求原因3(被告の過失)の事実は成立に争いのない甲第六号証ないし第九号証、第一七号証から認められる。被告としては降雪による路面の摩擦抵抗の低下を考慮し、通常以上の制動距離を前提に速度やブレーキ操作に注意を払うべきであつたものである。単に鹿児島地方に降雪が珍しいからといつてこれによる交通事故を不可抗力によるものということはできない。

三  次に請求原因4(損害)について順次判断することとする。

1  治療費

原本の存在および成立に争いのない甲第一八号証の一、二、第一九号証によれば、原告は本件交通事故による治療費として、整形外科田平病院に対し昭和五二年九月一六日までに合計五三万〇三六〇円、厚地脳神経外科に対し昭和五三年三月三一日までの分として合計三〇万五五〇四円、合計八三万五八六四円をそれぞれ支払つたことが認められるが、右合計額を超えて原告が治療費債務を負担した事実を認めるに足る証拠はない。

ところで成立に争いのない乙第七号証、原本の存在および成立に争いのない乙第八号証、右甲第一八号証の二、証人厚地政幸、同田平礼章の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回。ただし、いずれも後記の一部採用しない部分を除く)によれば、原告は事故の翌日である昭和五二年三月五日、整形外科田平病院にて診察を受け、担当医師に右側頭部、頸部の痛みや吐き気を訴え、その後、いわゆる鞭打症により前記のとおり同病院に入院し、主として理学療法を受けたこと、その間、外泊が三回あつたこと、同病院としては原告にそれ以上加えるべき治療法がないため、原告を同年九月七日に退院させるに至つたこと、原告としては症状が軽快しないため同年同月二八日以降、厚地脳外科病院に再入院したこと、同病院の担当医師は原告の社会復帰が症状の改善に役立つと考え、再三(特に同年一一月一日以降)、原告に仕事をするように勧めたこと、しかし原告はなおも不定愁訴を行ない、入院生活を継続させたこと、原告は同年一〇月に外出を三回、一一月に外出を六回、一二月に外出を三回と外泊を二回、昭和五三年一月に外出を五回と外泊を四回、二月に外出を七回、三月に外出を三回と外泊を一二回していること、以上の事実が認められ、右認定に反する原告本人の供述(第一、二回)の一部は採用しない。

右認定事実によれば、原告が整形外科田平病院に入院していた間の治療費(五三万〇三六〇円)の損害は本件事故と相当因果関係があるが、同病院退院時には症状が固定し、昭和五二年一一月一日ころには入院治療の必要がなかつたものと推認される。しかして原告が厚地病院に同年一〇月までの入院治療費として支払つた金額は確定できないが、同病院への支払額三〇万五五〇四円に一八五分の三四を乗じて得られる五万六一四六円(小数点以下は切捨)をもつて本件事故と相当因果関係のある原告の損害と認めるのが相当である。よつて本件事故と相当因果関係のある治療費損害の合計額は五八万六五〇六円となる。

2  入院雑費

前同様、原告の入院雑費は昭和五三年一〇月末までの分、すなわち整形外科田平病院については一八五日間、厚地脳外科病院については三四日間、合計二一九日間分を本件事故と相当因果関係があるものと認め、一日当たりの金額は原告主張どおり五〇〇円をもつて相当とする。よつて右の合計額は一〇万九五〇〇円となる。

3  交通費

交通費中、原告の母の分については後述のとおり、本件事故と相当因果関係があるとは認められず、また原告の分についても本件事故と相当因果関係の存在を認めるに足る証拠はない。

4  休業損害

原告本人尋問の結果(第一回)およびこれにより真正に成立したと認められる甲第四、五号証によれば、原告が昭和五二年二月には給与総額一四万〇六〇〇円、手取額一三万三二〇二円を得ていたこと、同年四月以降は昇給により給与総額一四万九六〇〇円(手取額は不明であるが、二月分と同比率による一四万一七二八円と推認される)を得べきであつたのに本件事故のためこれを得なかつたことが認められる。しかして本件事故と相当因果関係の認められる休業損害は同年三月分一三万三二〇二円のうち事故翌日以降の二七日間の日割計算による一一万六〇一四円(円未満は切捨)と、前記のとおり、同年四月ないし一〇月分九九万二〇九六円(一か月当たり一四万一七二八円の七か月分)の合計額一一〇万八一一〇円と認められる。原告が賞与を得べきであつたとの点についてはこれを認めるに足る的確な証拠がない。

5  書類作成料

書類作成料についてはこれを認めるに足る的確な証拠がない。

6  通信費

通信費については先に認定した雑費のうちに含ましめるのが相当であつて、別箇の損害費目として判断しない。

7  貸テレビ代

貸テレビ代は本件事故と相当因果関係のある損害と認められない。

8  寝具料金

寝具料金についてはこれを認めるに足る的確な証拠がない。

9  電気料金

電気料金についてはその金額を認めるに足る的確な証拠がない。

10  栄養費

栄養費については原告の治療上、これが必要であつたことを示す証拠がない。

11  付添看護費

付添看護費については前記甲第二、三号証によれば、必らずしも必要でなかつたものと認められ、右認定に反する原告本人の供述(第一回)は採用しない。

12  慰藉料

前記の事故態様、原告の入院月数やその経過等に照らし、原告の本件事故による慰藉料は二〇〇万円を以つて相当とする。

13  弁護料

以上の原告の損害額合計三八〇万四一一六円より当事者間に争いのない填補額一二八万九五五六円を控除すると二五一万四五六〇円となるが、被告が賠償すべき原告の弁護士費用はその約一割である二五万円をもつて相当とする。

四  抗弁について

抗弁1については被追突者が停車中、バツクミラーやルームミラーにより後方を注視することは望ましいとしても、これを怠つたことをもつてその者の過失と目することはできない。

抗弁2については本件事故と原告の損害との間の相当因果関係の存否の判断に尽くされているので、あらためて判断の要を見ない。

五  遅延損害金の起算日について

一般に遅延損害金は損害発生の翌日から発生するものであるが、傷害事故について個々の費目内容の発生の都度、これを算定するのは煩瑣に堪えず、少なくとも既往の損害についてはその内容が確定して被害者が加害者にその支払を請求した日の翌日をもつて起算日とするのが相当である。本件について見るに、成立に争いのない乙第五号証によれば、原告は昭和五五年三月二日差出の内容証明郵便により被告に一六〇四万七〇〇〇円の損害賠償を求めたことが認められ、右の翌日には被告にこれが配達されたものと推認されるから、同年同月四日を遅延損害金の起算日とすべきである。

六  結論

よつて原告の本訴請求は二七六万四五六〇円および内金二五一万四五六〇円に対する昭和五五年三月四日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。よつて訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、担保付仮執行の宣言につき同法一九六条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田幸夫)

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